今回の記事は子育てをしている人、子どもを教育する仕事をしている人にぜひ知って欲しい内容です。
子どもに対して「より良く育って欲しい」「幸せになって欲しい」と思いながら日々関わっている親や先生は多いと思います。むしろ、そういう親や先生ばかりの世の中であって欲しいと思っています。
しかし、実際は「初めての子育て」や「勉強不足の教育」が子どもの育ちに壁を作ってしまう場合もあります。今回はそんなお話。
なんと、近年の研究で、「言葉の暴力」「夫婦げんか」「方法を間違えたしつけ」が子どもの脳の発達にダメージを与えることが分かってきているそうです。
そして、あなたが良かれと思って子どもにしていることが、逆効果になっている場合もあります。
「何年も経ってからそれに気が付いた」「もっと早く知りたかった」
そんな思いを減らすために、この情報を知るタイミングは「今」ではないでしょうか。
"こころ"はどこにあるか
まずはじめに質問をします。
「あなたの"こころ"はどこにありますか??手をあててみてください」
そう聞かれると一般的には「心臓」や「胸のあたり」に手を当てる人が多いのではないでしょうか。
悲しいことがあった時に「胸が痛む」とか「胸に手を当てる」なんて言ったりしますもんね。
健康に詳しい方であれば、お腹(胃腸のあたり)に手を当てるかもしれません。
しかし、科学的には"こころ"というのはどうやら"脳"にあるらしいのです。
たとえば緊張する場面で心臓がドキドキするのは"脳"が指令を出しているからです。
そうやって喜怒哀楽などの感情や思考力や記憶力、すべて"脳"によってコントロールされていると考えるのが現代の科学的な見方らしいのです。
ということは、それで何が分かるかと言うと、子どもにとって"脳の育ち"はめちゃくちゃ大事だということです。
今回のお話は、そんな大事な脳が過度のストレスによって萎縮する場合があり、その原因が「親(養育者)の不適切な関わり」であることが分かって来たという内容なのです。
脳の発達に重要な時期
人間の"脳"は他の動物に比べて大きく、そのおかげで生物としてここまで発展することができたという事実は誰もが認めることです。
そんな脳には、外部からの影響を受けやすい非常に大切な時期があると言われています。
- 胎児期(ママのお腹のなか)
- 乳幼児期(0〜6歳)
- 思春期(10〜18歳頃)
それぞれの時期によって必要な関わりは違いますが、子ども時代というのは"脳"の発達にとって全て大切な時期であるということが分かります。
この時期は本来であれば親や祖父母、先生といった身近な大人から適切な愛情や心と体のケアを受けながらのびのびと育って行くことが望ましいわけです。
もちろん親も先生もそんなことは分かっていて、普段から子どもに良かれと思ってたくさん関わっていると思います。
しかし、子どもがこの時期に極度のストレスを感じると、まだ発達段階にある子どもの脳は、その異常な苦しみになんとか適応しようとして、脳を通常とは違う形に変形させてしまいます。
子どもに良かれと思ってしていることが悪影響かもしれない
さて、ここまで話を進めると、「今まで良いと思ってやってきたことが実は子どもにとって悪い影響を与えることだったかも、、、」と不安になる方もいるかもしれません。
どんなことが子どもの"脳"にとって良くないのか知っておくだけでも普段の関わり方が大きく変わってくると思います。
親も先生も、普段の生活の中で子どもが憎くてやっていることはほとんど無いはずです。きっと子どものためを思ってしていることばかりでしょう。
そんな真摯な思いが不適切な教育になってしまわないために、知っておいた方がいいことがあります。
虐待とマルトリートメント
「虐待」という言葉は、子育てをしていない大人でもどこかで聞いたことがある言葉だと思います。虐待には4種類あり、
- 身体的虐待
- 精神的虐待
- 性的虐待
- ネグレクト(育児放棄)
があります。
特に子どもへの身体的な暴力は、誰が見ても「いけないこと」というのは認知度が高いと思います。
身体的な暴力というのは、学校では「体罰」と言われ、家庭では「しつけ」と言われて昔の日本では当たり前に行われていた風習でした。
体罰の理屈は、「良いことを悪いことの区別を、身をもって(痛みを伴って)覚えさせる」ことになっているようですが、体罰は圧倒的にダメですよね。
何がダメかと言えば、体で感じる痛みだけではなく、心で受ける影響が絶大だからです。
- 信頼している人から叩かれる
- 大好きな人に突き放される
子どもからしたら相当な恐怖であり、ストレスになるはずです。
そしてもう一つ、「マルトリートメント」というものあります。
聞きなれない言葉かもしれませんが、今後必ずメディアで取り上げられるようになっていく言葉です。
マルトリートメントとは、日本語では「不適切な養育」と訳されています。位置付けとしては「虐待とまではいかないけれど、子どもにとって適切ではないこと」になるかと思います。
マルトリートメントの特徴は、殴る蹴るの暴力や食事を与えないなどの明らかな虐待行為に比べて、(マルトリートメントしている側が)それをしていることに気づきにくいことが挙げられます。
先ほどもいった、「子どものために、良かれと思ってしていることだった」ということが多いのです。
ここでいくつか、最新の脳研究によって子どもの脳にダメージを与えることが指摘された不適切な関わりを紹介します。
普段の子どもとの関わり方を思い浮かべながら読んでみてください。
言葉の面前DV
DV(ドメスティック・バイオレンス、家庭内暴力)という言葉は一般的に広まり、「いけないこと」として認知されるようになりました。
しかし、「面前DV」という言葉があるのをご存知でしょうか??
恥ずかしながらぼくは最近になって知りました。
面前DVというのは、「両親間のDVを子どもに目撃させるような行為」を言うそうです。
子どもに直接向けられた暴力でなくても、目の前で大好きな人が大好きな人に暴力や危害を加えているのを目撃すると、子どものこころと脳の発達に悪影響があることが分かってきているのだそうです。
そして、面前DVについてはさらに衝撃的な研究があります。
アメリカ・ハーバード大学の研究で、なんと、子ども時代に面前DVを目撃して育った人は、脳の一部(視覚に関する部分や単語の認知)が正常な脳に比べ、平均して約6%小さくなっていることが分かったそうです。
しかもその萎縮率は、身体的なDV(殴る・蹴る)を目撃し続けた子どもよりも、言葉によるDV(暴言、口げんか、脅し)を目撃し続けた子どもの方が大きかったそうです。
これはつまり、子どもが(主に親など)身近な大人の口論や感情的な言い争い、脅しや一方的な罵倒を目撃すると脳に負担がかかり、発達が阻害されるということです。
「(子どもは)まだ小さいから分からないでしょ」と思って子どもの前でしているやりとりは大人が思っている以上に子どもには影響があるようです。
身体的暴力で細くなる脳神経
殴る・蹴る・ベルトで叩かれる・頭をはたかれるなどの身体的な暴力が子どもの脳の発達に与える影響も分かっています。
例えば、2003年にハーバード大学で行われた研究では、
4歳〜15歳の間に両親や養育者から身体的な体罰を受けた経験のある男女とそうでない男女の脳を比較した結果、
体罰を経験したグループは、脳の感情や思考をコントロールしたり、行動の抑制に関わる部位の容積が小さくなっていたことが分かったそうです。
また、集中力や意思決定、共感する能力などに関する部位も小さくなっていたそうです。そして、別の研究ではこれらの部位が損なわれると、うつ病の一種である気分障害や、非行を繰り返す素行障害につながることが明らかになっています。
さらに、体罰を受けた人は、身体から脳へ「痛みを伝える神経回路」が細くなっていることが明らかになったそうです。
これらの脳の変形は全て、体罰によってもたらされる苦しみや痛みに対して、なんとか自分を守ろうとした結果起こるものであるという可能性が考えられているらしいのです。
性的な暴力で少なくなる記憶力
性的な暴力を受けると、脳はどのように変化して対応しようとするのでしょうか??
アメリカの研究では、「小児期に性的なマルトリートメント(不適切な養育)を受けた経験のある女性」を対象に脳画像を調べたところ、「視覚」に関する部位の容積が減少していたようです。
「視覚」というのは、見るだけではなく、見た映像を記憶として残そうとする場所でもあると考えられています。
つまりこの研究から、性的な暴力を受けると「目から入ってくる情報を制限して、苦痛を伴う記憶をなるべく脳内にとどめておかないようにする力が働く」のではないかと考えられるわけです。
暴言で大きくなる聴覚
親から暴言を浴びせられるなどのマルトリートメントの経験を持つ子どもは、過度の不安感や、おびえ、泣き叫ぶなどの情緒障害、うつ、引きこもり、学校に適応できないといった症状や問題を引き起こす場合があります。
言葉によるマルトリートメント(不適切な養育)を受けた経験のあるグループはそうでないグループに比べて、脳の「聴覚野」の容積が増加しているそうです。
なぜ暴言を受けると聴覚をつかさどる部位の容積が増えるのでしょうか。
その理由は、(4〜11歳という)脳の発達に重要な時期に十分な「刈り込み(神経伝達の効率化)」が進まないことが影響していると考えられているそうです。
言葉によるマルトリートメントのせいで、人の話を聞き取ることや、会話をする時に、脳に余計な負担がかかるようになり、情緒不安を起こしたり、人と関わることを避けたりする傾向が出てくるのではないかと言われています。
子育ての適切な関わりは"スキンシップ"
さて、ここまでにいくつかのマルトリートメント(不適切な養育)によって子どもの脳に起こる影響を紹介しました。
子どもへ向けた言葉の暴力だけでなく、子どもの前で行われる夫婦間のケンカすらも子どもの脳に傷跡を残してしまうという研究結果は衝撃的ですよね。
子どもの前で夫婦ゲンカをしてしまうという家庭は、子どもが寝静まったあとにするなど、対応を考える必要もありそうです。
さて、ここで気になるのが、マルトリートメントの対義語になる「適切な養育」ですよね。
子どもの脳が健全に育っていくには一体どうすればいいのでしょうか。
ポイントとしては、まずは子どもの安全・安心を確保することです。
家の中で、暴力や怖い言葉が飛び交っていたら子どもは安心できませんよね。
また、いつも「はやくしなさい」「まだやってないの??」と急かされている状態も、子どもにとっては安心できる環境とは言えないでしょう。
子どもには子どものペースがあるので、極力そのペースを大切にしてあげたいものです。
また、発達心理学では、子どもは幼いうちに「愛着(アタッチメント)」を形成することが重要だと言われています。
これはつまり、子どもが健全な成長をしていくためには、安心や安全を保障してくれる絶対的な存在との強い信頼関係が必要になるということです。
絶対的な存在というのは親や主な養育者となります。
親とのあいだで愛情のキャッチボールをせずに育つと、「反応性愛着障害」と呼ばれるような、他人全般を信用できず、自分に向けられる愛情や好意に対しても、怒りや素っ気ない態度で返してしまう可能性もあります。
スキンシップで信頼関係を築こう
子どもと愛着形成を築こうと言われても、何から始めればいいのか分からない人も多いと思います。
そんな方のために、とっても手軽にできて、親の心の癒しにもなる方法を最後に紹介します。
その方法は"スキンシップ"です。
日本の家庭では子どもが大きくなるにつれて触れ合う機会も減ってしまいがちです。
しかし、アメリカやヨーロッパでは、子どもが大きくなってもハグやキスは日常的に行われます。
キスをした方がいいとは言いませんが、頭を撫でであげたり、寝る前や家を出るまでにギュッと抱きしめるだけで子どもは「自分は守られている」という安心感を得ることができます。
そんな日々のスキンシップの積み重ねが、子どもを健全に育てる方法の1つです。
スキンシップに慣れていないと最初は子どもも恥ずかしがって嫌がるかもしれませんが、習慣になれば子どもの方から求めてくるようになるでしょう。
それは決して"甘え"ではなく"安心の確認"です。
ぜひスキンシップをたくさんとってあげてくださいね。
おすすめ本紹介
今回の記事は『子どもの脳を傷つける親たち』(NHK出版新書)という書籍をベースにしてまとめました。
本書には、今回記事で書いたこと以外にも子どもの脳の発達に関する重要な内容がたくさん書かれています。
子育て中の親御さん、子どもの教育に携わる先生にオススメの1冊です。
今回も最後まで読んでくださってありがとうございました。