13〜18歳 7〜12歳

【解説】子どもを”ご褒美”で釣ることはアリかナシか?

かんかん

「子どもにニンジンぶら下げて勉強させるってどうなの?」

テスト勉強や学校の成績に関して、子どもにやる気を出させるために「食べ物」や「おもちゃ」「お金」といった”ご褒美”を使って子どもを釣ろうとした経験はありますか?

ご褒美を用意してみて実際に子どもはやる気になってくれたけど、「このやり方が本当に子どもにとって良いのか不安」という方も多いと思います。

今回は、そんな「子どもを”ご褒美”で釣ることはアリかナシか」という疑問についての科学的根拠のある答えを紹介します。

 

経済学的には「ご褒美で釣っても良い」

まず結論から先にお伝えしますと、「子どもに勉強させるために”ご褒美”で釣ることは、良いこと」になるようです。
ただし、どんなご褒美でもよい訳ではなく、「理想のご褒美」というものがあります。

 

この記事では、
まずはじめに「なぜ子どもを”ご褒美”で釣ることが良いことだと言えるのか」を解説したあと、
その次に多くの人が気になるであろう点について少し考え、
さいごに「理想のご褒美」について具体的な例を紹介します。

 

人にやる気を出させるために”ご褒美”を設定することを「目の前にんじんをぶら下げた状態」と言ったりしますが、子どもにとってのニンジンは「食べ物」や「おもちゃ」「お金」だったりしますよね。

では一体、「どんな場面」で「どんなもの」を”ニンジン”として設定するのがいいのでしょうか。

 

人は遠い将来の利益よりも近い将来の利益を選びがち

子どもにご褒美が有効な理由を理解するためには、まず人間が持っている「ある特徴」を知る必要があります。

その特徴とは、「人は遠い将来の利益よりも近い将来の利益を選びがち」というものです。

これは多くの人に当てはまることなのですが、

例えば、「半年後には痩せていたいと思っているのに毎日お腹いっぱい食べてしまう」というのは、「痩せる」という遠い将来の利益があるにも関わらず、「お腹いっぱい食べる」という目先の利益を選んでしまっている状態といえばイメージしやすのではないでしょうか。

 

喫煙や浪費癖も同じです。1年後や5年後のような遠い将来のことであれば冷静に考えて「タバコは辞めた方がいい」「貯金はあった方がいい」という選択ができても、1時間後や明日のような近い将来に、少し頑張れば「タバコ」や「欲しかった物」が手に入ると思えば、そちらの利益を選んでしまう特徴があるわけです。

 

すぐ手に入る魅力的な”にんじん”を用意する

この特徴は大人にも子どもにも当てはまります。

「人は遠い将来の利益よりも近い将来の利益を選びがち」という特性を子どものご褒美に応用するわけです。

つまり、子どもが「目先の利益や満足を優先してしまう」のであれば、勉強することで得られる魅力的な”ご褒美”が目の前に現れると、勉強することの利益(メリット)が一気に高まり、それを優先したくなるということです。

 

これは「学期末の成績が良かったらお小遣いをあげるよ」という”ご褒美”よりも、少し極端ですが「1時間勉強をしたらお小遣いをあげるよ」という”ご褒美”の方が子どもには響きやすいということを示しています。

そこで次に重要になってくるのが「どんなことに対してご褒美を設定するか」です。
せっかくご褒美を用意するのなら、より効果的に作用して欲しいですもんね。

「なんか難しいけど、とにかく"ご褒美は良い"ってことですね」
「何にご褒美を用意するかでも効果が変わるよ」

 

アウトプットよりインプットにご褒美を

次の2つのご褒美の用意の仕方だと、どちらが子どもの学力を上げるのに効果的だと思いますか?

①「テストで良い点を取ったらお小遣いをあげるよ」
②「本を1冊読んだらお小遣いをあげるよ」

この二つの違いは「どんなことに対してご褒美を設定しているか」です。

「テストで良い点を取る」というアウトプットに対してご褒美を設定しているか、
「本を1冊読む」というインプットにご褒美を設定しているかの違いです。

メモ

ここで出てきた「アウトプット」と「インプット」は、
「インプット・アウトプットアプローチ」とも呼ばれているもので、授業時間や宿題などの教育上の「インプット」が、学力などの「アウトプット」にどのくらい影響しているかを明らかにするものなんだそうです。

 

これはアメリカのハーバード大学のフライヤー教授が行った実験で明らかになっており、実験の結果、どちらが効果的だったかというと、学力テストの結果が良くなったのは、インプットにご褒美に与えられた子どもたちでした。

さらに、特に数あるご褒美の中でも「本を読むこと」にご褒美を与えられた子どもの学力の上昇率が良かったそうです。

つまり、ご褒美を設定する時は、「テストが良かったら」や「試合で勝ったら」というアウトプット(結果)よりも、「1時間勉強したら」や「筋トレと素振りをしたら」といったインプット(具体的なこと)にした方が効果が高いというわけです。

 

ご褒美をインプットする内容に設定した方が良い理由

「なんでインプットに設定した方がいいの?」

では、なぜ「テストで良い点を取ったらお小遣いをあげるよ」の方が効果が薄かったのでしょうか。

この実験結果のポイントは、「具体性」にあります。

たとえばインプットの方は「本を読む→お小遣いがもらえる」というように何をすれば良いかが明確です。

しかし、アウトプットの方は「◯◯をする→テストで良い点を取る→お小遣いをもらえる」というように、条件を達成するための「◯◯をする」が明確ではありません。

 

つまり、アウトプット(結果や成果)に対してご褒美を設定すると、子どもたちはご褒美が欲しいし、やる気もあるのですが、「どうすれればテストで良い点を取れるのか分からない」状態になってしまうのです。

それを証明するかのように、ニューヨーク市立大学のロドリゲスという准教授の方が行った実験では、子どもの学習の面倒を見る指導者や先輩がいる場合には、アウトプットにご褒美を与えても学力が改善することが発見されました。

「テストの結果」などのアウトプットにご褒美を与える場合には、具体的に何をすれば成績を上げられるのかを教えてくれる人(親や家庭教師)の存在が必要だということです。

 

気になる点

子どもにご褒美を用意することは良いことは分かりましたが、同時にさらなる疑問も浮かぶのではないでしょうか。

その疑問とは、

  • ご褒美を設定することで「自分から積極的に取り組む意志」を失ってしまうのではないか。
  • ご褒美を「お金」にしてもいいの?

といったものです。

「ご褒美を設定したら子どもが「自らのやる気」を失ってしまうんじゃ?」

という疑問に関しては、実験の結果、ご褒美が子どもの「内的インセンティブ(つまり自らのやる気)」を失わせることはないということが分かっているそうです。

 

「ご褒美をお金にしてもいいの?」

という疑問に関しては、これも実験の結果から明らかになっていて、小学生以下は現金よりもトロフィーの方が効果があったそうです。

それも高価なトロフィーである必要はなく、安価な物でも良いようです。

保育園でも「頑張った賞」として手作りのメダルやバッジを用意したりしますが、小学生以下の子どものやる気を刺激するには効果的なんですね。

 

中高生以上は、トロフィーなどの物よりも、現金の方が効果が高いようです。

子どもに現金を与えることに抵抗があるかもしれませんが、これは考え方次第だと思います。

お小遣いは子どもが自分で考えて使えるお金を手にすることになるので、そこを出発点にして「金融教育」を行う絶好のチャンスになります。

先ほどのフライヤー教授の実験でも、後のアンケート調査で、ご褒美にお金を得た子どもたちはお金を無駄遣いするどころか、きちんと貯蓄をし、娯楽や衣服、食べ物に対して使うお金を減らすなど、より堅実なお金の使い方をしていたことが明らかになっています。

 

そう考えると、「毎月決まった金額のお小遣いを決まった日に渡し、あとはどう使うかは子どもに任せっぱなし」というお小遣いの渡し方よりも、「(自分が何かをしたことで得たお小遣いは有り難みも変わると思うので、)あえて使い方や貯金の大切さを伝えながら見守る」という方法の方が子どもには効果的な気がします。

日本人はお金に対しての教育が乏しいと言われていたり、子どもにお金をあげることに抵抗がある人も多いと思います。

しかし、だからこそ、子どもがお金について学べるように、ご褒美で得たお金の使い方をそのまま金融教育の材料にしていくことがオススメです。

 

結論

正しいご褒美を用意すれば、子ども自らの好奇心・やる気を失うことなく、金融教育を学び、学力も向上させることができます。

今回の内容をもとに理想的なご褒美を考えてみると、

「1時間読書したらお小遣いあげる」

これが最も効果的な学力のあげ方なのではないでしょうか。

例えば、毎月のお小遣いを分割にして「平日1時間読書をしたらそのあとすぐに分割したお小遣いをあげる」という約束にしておくのもいいかもしれません。

(月のお小遣いが5,000円であれば5,000円÷20日=250円/回,お小遣いが3,000円であれば150円/回にするなどです。)

もちろん、内容は「読書」でなくてもいいですし、ご褒美は「お小遣い」でなくても構いません。

 

逆に良くない例の典型としては、「学期末の成績が良かったらお小遣いをあげる」というご褒美や「テストで◯点以上だったらお小遣いをあげるね」というご褒美の設定の仕方でした。

成績やテスト結果という「アウトプット」に対して「ご褒美」を「テスト後」に渡す。

もしそうする場合は、「具体的になにをすればいいか」を教えてあげる大人や先輩の存在が必要になることをお忘れなく!

 

さいごに

というわけで今回は、子どもに勉強をさせるために”ご褒美”で釣ることは良いことなのかについて、経済学的な視点から見たデータを紹介しました。

経済学的な視点では、「理想的なご褒美」を設定することで子どもの学力は上がるということが分かっているので子どものためにも上手に使っていきたいですね。

ただし、使い過ぎには注意が必要で、心理学的な視点で見ると、「読書をすれば毎回ご褒美がもらえる」という日常が続くと「ご褒美がもらえないなら読書はしない」という習慣が付いてしまう可能性が高くなります。

 

ご褒美だけに頼ることなく「本を読むことの楽しさ」や「運動することの楽しさ」、それ自体を楽しめるような配慮が必要だと思います。

 

参考本

最後まで読んでくださってありがとうございました。

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